大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)1594号 判決 1977年2月03日
控訴人
井上市助
右訴訟代理人
表久守
外一名
被控訴人
井上周二
右訴訟代理人
三浦正毅
主文
1 原判決の主文第一項および第三項を取消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 原判決主文第三項を取消した裁判にかぎり仮りに執行することができる。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
理由
一控訴人、被控訴人間に昭和四八年三月五日成立にかかる京都家庭裁判所舞鶴支部同年(家イ)一号親子関係調整調停事件の調停調書が存在するところ、右調書には「被控訴人は養父控訴人および養母井上信江に対し、扶養義務の履行として昭和四八年三月から毎月一カ月一万円を支払う。」旨の記載があることに当事者間に争いがない。
二被控訴人は本件請求異議の事由として、要するに、右家事調停調書記載にかかる被控訴人の養父控訴人に対する扶養義務の履行としての金員支払義務は(なお、<証拠>によれば養母井上信江はすでに昭和四九年八月一七日死亡したことが認められる。)その後扶養権利者である控訴人の需要、扶養義務者である被控訴人の資力その他の事情が変更したためすでに消滅した旨主張して右家事調停調書の執行力の排除を求めているものにほかならない。
しかし、もともと本件家事調停調書に表示の被控訴人の控訴人に対する扶養義務の具体的内容たる金員支払義務は当事者双方の合意に基き家庭裁判所における調停が成立することによつてはじめて形成確定されたものであり、このようにして形成確定された具体的な金員支払義務は、一方当事者の死亡、離縁その他基本的扶養義務を成立させる身分関係の消滅事由であつた場合は格別として、単にその後の客観的な事情の変更によつて実体法上当然に変更消滅するものではない。もし、調停成立後被控訴人主張のような事情の変更が生じたというのであれば、被控訴人としては右事情変更に基き控訴人との間で扶養義務の具体的内容を変更する協議を成立させるか、または民法八八〇条、家事審判法九条一項乙類八号に則り、家庭裁判所において該調停調書に記載された扶養義務の具体的内容の変更または取消を命ずる審判を得るべきである。
そうすると、被控訴人の主張する異議事由は主張自体失当で、被控訴人の本訴請求は爾余の判断をなすまでもなく棄却すべきである。
三よつて、これと異なり被控訴人の異議事由を認めてその請求を認容した原判決は取消しを免れず、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、原審のした強制執行停止決定認可の裁判の取消および仮執行の宣言につき家事審判法第二一条第一項但書、第一五条、民訴法五四八条一項、二項を適用して主文のとおり判決する。
(朝田孝 戸根住夫 畑郁夫)